「失敗してもいい、泥だらけでいい。」
フリースクールの子どもたちと作る「みらい米」
新潟県新潟市西区にあるフリースクール「サンフライト」。
ここに通う子どもたちと、代表の陽さん、地元農家の佐藤さんが、無農薬・除草剤不使用のお米作りに挑戦しました。
一般的な学校と違う学びの場を選んだ子どもたちが、なぜ泥だらけになって田んぼに入るのか。
米作りを通じた変化や「みらい米」に込められた願いとは。
サンフライト代表の陽さんにお話を伺いました。
単発のイベントから、長期的な「体験学習」へ
ーー 最初から「お米を作ろう」という計画があったのでしょうか?
最初から事業として計画していたわけではないんです。
サンフライトで実施している教育活動は地域の方々にも様々なご協力をいただいているのですが、
その中で子どもたちを外に連れ出して、体験的な活動をさせてもらう機会が増えていったことが大きなきっかけでした。
いろんな人と関わる中で、柿もぎや美術館に行くといった単発のイベントだけでなく、
自分たちで長期的なスパンで目標を持ち、
形になるものを目指す「体験学習」をさせてあげたいと思うようになったんです。
新潟の公立小学校では田植えや稲刈り体験をよくやっていますが、
そこには行っていない子どもたちにも、
それ以上に価値のある体験ができるスクールにしたいと考えていました。
ーー そこで、農家さんとの出会いがあったのですね。
最初は実家の田んぼを使おうとしたのですが父に反対されてしまって。
そんな時に、私たちを支援してくださっている団体「Smile Story」の綱本麻利子さんに相談したら、
地元農家の佐藤さんをつないでくださったんです。
そこからはもうトントン拍子で、農家さんと一緒にお米作りをするという奇跡的な流れになっていきました。
最初は「耕作放棄地を活用して特別栽培米を作る」とった、大きな事業になるとは思ってもみませんでしたね。
「どうぞ」ではなく「一緒にやろう」。農家さんと同じゴールを目指して
ーー 自分がやるのではなく、子どもたちと一緒にお米を作るというのは難易度が高いと思います。「普通の作り方でいい」という迷いはありませんでしたか?
それが、全く迷いはなかったんです。
除草剤を使わないので、
「自分たちが田んぼに入って草取りをして、泥の中を歩き回らなければいけない」
ということは分かってはいたのですが、なぜか「できる」と思っていました。
怖いもの知らずだったのかもしれません(笑)。
水管理など、長年の経験や勘がないと難しいことは、
佐藤さんにサポートしていただく前提だったことも大きいです。
ーー 農家さんからの強力なバックアップがあったのですね。
そうですね。
佐藤さんたちも「無農薬をやりたいと、ずっと考えていたんだ」と言ってくださって。
「やってみれば?」と場所を貸すだけではなく、
「一緒にやろうよ」という立場でスタートさせていただけたのが一番大きかったです。
私たちは水田に入って子どもたちと一緒に体験したい。
佐藤さんは眠っていた田んぼ(耕作放棄地)を蘇らせて、安心・安全なお米を作りたい。
別々の方向からですが、同じ場所で同じ方向を見て取り組める。という気持ちになれました。
大人が「失敗する姿」をそのまま見せる意味
ーー 実際に田んぼの活動が始まって、子どもたちの様子はいかがでしたか?
田植えの時は本当に楽しそうでした。
朝が苦手な子も多いので早朝の田植えに来てくれるか不安だったのですが、時間通りに来てくれて。
普段の教室では「なんで勉強しなきゃいけないの?」と学習の意義を深く考える子たちなんですが、
田んぼではシンプルに自然の中で遊ぶように楽しんでいて、生き生きしていました。
もちろん、全員が参加したわけではありません。
大人数や初めての人が苦手な子もいますし、体験活動にはエネルギーが要ります。
全員参加を強制するつもりは全くないので、意欲のある子が参加してくれればいいと思っています。
ーー お米作りを通じて、子どもたちとの向き合い方や関係性に変化はありましたか?
『教える側』として失敗しないように取り繕うのではなく、子どもたちと同じ目線で『一緒に学ぶ』スタンスを大切にする中で、
私が悩んだり、やり方がわからなくて苦戦したりする姿を『そのまま見せること』がすごく大事だなと思うようになりました。
私も水田に入ったことがなかったので、最初はうまく歩けなかったし、溝切りバイクに乗って泥だらけになって転んだり、
作業に夢中になりすぎて自分の水分補給を忘れ、熱中症になったりもしました。
でも、そうやって失敗する姿を見せることは全然恥ずかしくなくて。
一生懸命やりたいことに向き合って行動している姿を見せる意味の方が大きいと思っています。
失敗しても、またやればいいんですから。
ーー 大人自身が本気で挑戦する姿を見せたのですね。
そうですね。
今まで私は、子どもたちの「やりたい」をサポートする裏方でいようと思っていました。
でもこのお米作りに関しては、子どもたちからの要求が全くないにもかかわらず、
私から「田んぼをやりたいんだ!」と熱く語って誘ったんです。
大人が真っ直ぐに自分の気持ちを表現する姿を子どもたちに見せたからこそ、
子どもたち自身も「やりたい」って表現していいんだ、
と思ってもらえる関係に近づけたような気がしています。
適正価格で販売する「覚悟」と、子どもたちへの還元
ーー 今回、このお米を適正な価格(高付加価値)で販売していくことになります。そこにはどんな思いがありますか?
お米を作る現場に関わらせてもらって、初めて「覚悟」を持てた気がします。
自分で田んぼに入って無農薬・無肥料のお米作りを体験したからこそ、
農業に携わる方や佐藤さんへの尊敬の念がすごく強くなりました。
だからこそ、この意義のある活動をしっかり伝えて、適正な価格で買っていただくことが、
支えてもらった農家さんへの最大の敬意の表し方だと思ったんです。
そして未来を見据えれば、このお米の売り上げがNPOの自立に繋がり、
子どもたちが今よりもスクールに通いやすくなったら、もっと可能性が広がると思っています。
ーー 子どもたちにとっても、販売という出口まで関わるのは大きな経験になりますね。
子どもたちには、パッケージのラベルデザインをしてもらいましたし、
実際にラベルを貼る作業はずっと手伝ってもらいます。
自分たちが携わったお米が対価に変わる。
この体験を通じて「仕事」のスタートラインに立ち、
社会とつながる一歩目を経験をしてくれたら、本当に嬉しいです。
ーー 購入者の方々と、どのような関係を作っていきたいですか?
ただ物を売って終わり、という社会の仕組みにはしたくないんです。
なので、Webサイトにはお米を食べてくれた方から、子どもたちへのメッセージを送れる機能をつけたいと考えています。
厳しい意見もあるかもしれませんが、それも含めて笑って話せたらいいな、と。
単にお金を得るだけでなく、「誰かに喜んでもらうことが仕事の本質なんだ」ということを、子どもたちに体感してほしいです。
「みらい米」に込めた願いと、これからの応援団へ
ーー 最後に、この「みらい米」という名前に込めた思いと、手に取る方へのメッセージをお願いします。
サンフライトは、一般的な学校の枠にとらわれず、多様な学びの選択肢となる「オルタナティブ教育」の場を目指しています。
このお米は、そんな新しい学びの環境に身を置く子どもたちが、たまたま私と一緒に作っているだけなんです。
どんな場所で学んでいても、子どもたち一人ひとりは無限の可能性を持っていますし、すべての子どもたちは可能性に満ちた尊い存在です。
だからこの「みらい米」を召し上がった方には、特別な作り方をした美味しいお米を食べるということだけではなく、
あらゆる学び方をしている子どもたちの尊い思いを受け取っていただきたいな、と思っています。
公立の小学校でお米作りを体験している子どもたちも、私たちのスクールで学ぶ子たちも、みんな素晴らしい。
色々な生き方をしている子どもたちに思いを馳せるきっかけになってくれたら嬉しいです。
できれば、この活動に興味を持っていただき、このお米を通じて、子どもたちの未来を作る「応援団」の一人になってもらえたら最高ですね。